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Selfishly

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Pa 25 「それぞれの想いの行方 act4」


Pa 25 「 それぞれの想いの行方 act4」


H18,5/28 19:00


『あんな事をしたいと思っていたわけじゃ・・・』

エドワード達が去った後、
ぼんやりと湖面の岸で腰をかけたまま時が過ぎる。

本当に、最初は ただ純粋に エドワードから多くの信頼を得、
共に並び歩ける関係をと願っていたはずだった・・・。

エドワードも、嬉しそうに同様の事を言葉にしてくれたのに。
何故、自分は そこで我慢出来なかったのだろう。

もう、何度目かわからなくなった深いため息を、
湖面を渡る風に乗せて吐き出す。

あの笑顔がいけなかったんだろう。
エドワードが、 『気の合う奴に、好かれて嫌な人間はいないぜ?』と
言ってくれた時に見せた笑顔・・・。

その笑顔には何の翳りも無く、暗い思いなど どこにも介在しない。
純粋で、屈託無く、明るい笑顔だった。
そんな笑顔を嬉しそうに向けられた時。
自分の中で、『それだけの想いでは、嫌だ。』と、ふいに生まれた衝動。

エドワードの中には、自分に対する想いが無い事を知らせれた気にさせられた。
好感が持てる人物で、仲が良い人間で、気が合う奴。
エドワードの中のレイモンドは、
それだけの存在で、それ以上では絶対にないのだと告げられる
無邪気で、残酷な言葉は レイモンドを深く傷つけた。


そして、レイモンドは 自分の受けた傷の深さで、
エドワードに対する自分の想いに気づかずにはおれなくなった。

そして、気づいた時には エドワードに触れようと動いていた自分がいた。
曖昧な誤魔化しも、姑息なすり替えの関係も、
自分で騙していた想いも、
結局は、無駄だと思い知る 要求に突き動かされた行動。
それが、レイモンドの本心の願いを現しているのだと。


静かに見つめる湖面では、
中空に輝く月が、優しく労わるように
惜しげなく 優しい輝きを降り注いでくれていく。







「報告はわかった。
 では、これから 私は完了まで 待機をする事にする。

 中佐は、一旦 自宅に戻りたまえ。」

えっ、と驚いた表情でホークアイ中佐がロイを見る。

「 どうせ、事件の処理は 明日にならなければできないのだから、
  待っていても時間の無駄だ。

 待機には、私がいれば十分だろう。」

確かに、上司の言う事は そのとうりなのだが、
本来、その場合には 下の人間が残るのが普通だ。
上司を連絡係りに置いて、部下が帰ると言うのは・・・。

ロイは、ホークアイ中佐の戸惑いに
気にするなと言う風に手を振り、
本音の1部を告げる。

「まぁ、どうせ私は、帰ってもエドワードも居ないことだしね。
 待機していた方が より近況が聞けるんで安心なんだ。」

そう告げる上司に、ホークアイは 納得したように頷く。
そして、きっちりと礼をしながら
感謝の言葉を告げる。

「ありがとうございます。
 では、お心に甘えさせて頂いて 帰らせて頂きます。
 
 何か ございましたら、いつでもご連絡ください。」

礼儀正しい部下が去って十分な時間を計り、
一人っきりになった司令室にかかる時計を眺め
ロイは、「さて。」と呟きながら、席を立つ。




「じゃぁ、俺が 陽動と捕獲を始めたら
 フュリー中尉が 武器庫を押さえて、
 ハボック少佐が 獲りこぼしを押さえるって手順でいいんだな?」

エドワードは 出かけ前に、決まった手順を繰り返す。

「おう、大将が 捕獲し損ねた人数にも寄るけど、
 まぁ、経験薄いグループなら 最初の捕獲で 大半おさえれるだろうし、
 どうしても 俺一人で手が余るようなら、
 二人に援護を頼むわ。」

「わかりました。」
「OK。」

そう話が決まると、後は 無駄口も聞かずに作戦遂行に移る。

作戦の決行は、昨日のエドワードが行った時間と同様に深夜に始まった。
出来れば、明け方の 人がまだ寝静まっている時間まで終わらせて
騒ぎを大きくしないようにしたい為、
捕獲が終了次第、待機している この地区の軍に、
引き渡しする手はずが整っている。


アジト近くまで来ると、それぞれが 持ち場に着く。
3人とも、互いの行動に迷いも無いスムーズな事の運びだ。

「さて、やりますか。」
エドワードは、一息ついて テントが点在する中心にあるテントに意識を向ける。

ドカッと言う轟音が響き渡る。
そして、振動。
各テントからは驚いて、
急ぎ状況を把握させようと飛び出す人間が現れてくる。

『12,15,18』 
3人とも、冷静に出てくる人数を確認していく。


「なんだ、これはー!」

「お~い、大丈夫かー?」

驚きの声が飛び交い、賑やかになった周辺では
火が灯され、状況を掴もうとする人間が動いている。

「一体、なんで こんな事になってるんだ?」

いきなりできたクレーターにはまり込んでいるテントを見つめながら
周辺の人間達が、首を傾げている。

「おい、どうでもいいが 早く引き上げてくれよ!」

下からは、寝起きに こんな非常事態に落とし込まれた人間達が
怒声と共に、上から見物している者たちに苛苛と言葉を投げる。

敵の襲撃かと緊張して出てみれば、クレーターにはまり情けなくも
助けを呼ぶ仲間を目にして、あちらこちらから 失笑が浮かぶ。

「おい、ロープを持って来い。」

リーダーらしい男性が、苦笑と共に仲間に指示する。
指示された者も、笑いを堪えるようにして去って行く。

何本かのロープをテントにくくりつけ、
人間用にもロープを降ろしてやり、
仲間の救出作戦が始まった。

しばらく四苦八苦しながらの救出作戦が終わり、
全員、ホッとして互いの緊張感が抜けた時、

それまで、じっと事の成り行きを見ていただけであったエドワードが
次の練成を繰り出してくる。

「わぁ! また、何だ!」
「ひぃー。」
「地震か!?」

轟音と共にやってくる振動に身を強張らせて面々が、
元に塞がっていくクレーターを見て、驚きの声を上げる。

さすがに、ただの天災ではないと気づいた者達が警戒態勢を取ろうと
行動するより早く、エドワードは 次次と囲いを作っては
個々に分断して行く。

最後の一人を捕まえ終わった後、
エドワードは 身を隠していた木陰から姿を現して
ハボック少佐に呼びかける。

「少佐~、こっちは終わったけど?」

呼びかけに答えてハボックも、姿を現す。

「おう、相変わらず見事なもんだなー。

 こっちは、見張り2名眠らせてるから
 また、囲いを頼む。」

ハボックが 出てきた周辺を指差すと、エドワードが
了承の言葉と共に走って行く。

「さて。」

掴まって まだ呆然としている者たちに ハボックが決まり文句を投げかける。

「えー、お前らの身柄は拘束された。
 今更、抵抗しようって奴はいないと思うが、
 武器は すぐさま檻の外に 静かに置け。

 隠し持ってても無駄だぜ、逆に痛い想いっしたいんなら
 構わないけどな。」

そう言いながら、人の悪そうな表情で 檻の中の面々を眺める。

「中佐、向こうも檻に入れといたぜ。」

エドワードが、そう告げながら戻ってくる。

「おう、サンキューな。
 フュリー中尉は?」

「うん、こいつら結構良い無線機持ってるらしくて
 フュリー中尉が、それ使って軍に連絡してる。」

「そっか、それじゃー到着を待つだけだな。

 あっと、ついでに悪いんだけど
 こいつらが、武器所持してないか確認してくれないか?」

「OK。」

頷くエドワードに、ハボック少佐は ついでにと付け足す。

「で、置かないと痛い目見るぞっては言っといたんで、
 言いつけを守らなかった悪い奴には、
 少々、罰あてといてやってくれ。」

にやりと笑いながら告げられる言葉に、エドワードは苦笑しながら
了承の合図に頷いてやる。


エドワードは、静かに 檻の面々を眺める。

「んで、今 ハボック少佐が言ったとうり、
 携帯している武器は、今すぐ 檻の外に出してくれる?

 で、言う事きけない奴は 今からちょっと痛い目に合うんで
 宜しく。」

そう言いながら、凄みのある笑顔を向けられると
本能的に恐れを感じた何人かが、素直に武器を出してくる。

それに、満足げに頷きながら

「んじゃ、行くな。」
と、聞いてる者には意味不明な言葉を吐く。

途端、「ギャー」とか「イテェー!」、ボン!と言う音が響いてくる。

ハボックは、声と音が響いた檻に近寄っては 武器を回収していく。


武器を回収し終わって戻ってきたハボックは、
首を振りながら、

「馬鹿だねー、痛い目に合わないと解らんのかね。」
と変形した武器をひとまとめに置いていく。

「ハボック少佐、エドワード君。
 軍に連絡が付いたんで、もうじき到着すると思いますよ。」

フュリー中尉が、いつも変らぬ穏やかな笑顔を二人に向け
二人に近づいてくる。

そして、テロ捕獲作戦は あっけなく終了を示した。




ロイは、綺麗な湖面を眺めながら
こんな所で休暇も悪くないなと考えながら、
山に至る道を歩いていた。

ホークアイ中佐には、待機をしておくと伝えたが
別に司令部でとは言ってない。
ロイは、ホークアイが帰ってすぐに車を走らせて
ここまでやってきていたのだ。

エドワード達が居る所は、報告でわかっている。
どちらにしても、賑やかな事になっているだろうから
近くまで行けばすぐにわかる。

険しくなる山道の入り口に目をやると、
見知った姿が見えてくる。
ロイは、黙ったまま その人影に近寄っていく。

暗闇でも月明かりで相手の顔がわかるまでの距離に近づくと
ロイは、落ち着いた声で相手に声をかける。

「やぁ、こんな深夜に こんな所に散歩かね?」

ロイが近づいてきている事に気づいていた相手は、
ロイ同様に、驚くことも無く落ち着いて返事をする。

「こんばんは。
 貴方も、わざわざ こんな所までお越しで?」

「ああ、部下が奮闘しているのだから
 労いの言葉をかけにくるのは、上司の役目だからね。」

そう、にっこりと社交用の笑顔を貼り付けて答えてやる。

レイモンドに構わず、ロイは その横を通り抜けようと足を進める。
すれ違った背中に、レイモンドの声が聞こえてくる。

「危ないとは思わないんですか?
 エドワードは、正規の軍の人間ではないんですよ!」

ロイは、進めていた足を止め 相手を振り返る。

「それが?」

ロイの平然とした態度に、レイモンドの怒りが上がる。

「それがわかっていながら、
 何故 エドワードに こんな危ないことをさせるんですか!

 彼に、もし何かあったら どうするんですか!
 
 貴方は、エドワードの事が心配にならないんですか!?」

レイモンドにしては珍しいだろう取り乱した姿に
ロイは、苦々しい表情を浮かべて 返事を返す。

「心配してないかって?

 馬鹿な事を。
 私は、いつでも あの子の事を心配しているさ。」

「じゃあ、何故!?」

怒りで尚も言葉を募らせようとしたレイモンドを、
ロイは 静かに見つめ返す。
その瞳の暗さに、圧されたようにレイモンドは口を噤む。


「何故?
 
 もちろんじゃないか。
 あれが、そう望むからだ。

 あの子は 自分の考えで判断し、進んでいく。
 それは、誰にも止める事はできない。

 そして、止めることは エドワードの存在を否定する事に変わらない。

 私・・・、私たちに出来る事は
 信じて待ってやる事だ。」

そう言うと、ロイは 静かに山に入っていき、
そこに、残されたレイモンドは 
呆然とロイの後ろ姿を見送るしかなかった。




ハボックとフュリーが、待つ時間に出来ることをと
掴まえた犯人達の事情徴収を行っている間、
エドワードは 暇を持て余して、ブラブラと周辺を歩いていた。

バタバタしている間は考えなくて済んでいたが、
こうして時間が出来てしまうと、
夜にあったレイモンドとのやりとりが浮かんでくる。

あの妙な雰囲気は、エドワードの中では 自分の勘違いだろうと
思うようになっていた。
『きっと、感情が昂ぶってて ハグしようとしてたんだな。』
それを、妙な疑いを持った自分が、
レイモンドに少々申し訳ないような気がしている。

『でも、横を共に歩いていく相手か・・・』

そこまで、レイモンドがエドワードを気にいってくれていたことは
エドワードには 嬉しいことだ。
『だけど・・・、俺の唯一の横は・・・。』

自分の考えに浸りこんでいたエドワードに、
ハボックやフュリーが 何かを叫んでいたのだが、
エドワードが気づいたのは、自分の身体がバランスを崩して
思考の淵から、戻った時だった。

「大将、危ない!」
「エドワード君!」

『やばっ!』
足場の悪くなっている高台からエドワードが落ちるまでは
そんなに時間がかからない。
練成する間もない落下距離では、
エドワードが、痛みを覚悟して目を瞑る。

が、覚悟していた痛みは襲ってこずに、
受け止められる衝撃に、エドワードが そっと目を開ける。

「全く君は・・・。
 こんな余計な所で、怪我を増やしてどうするんだね。」

間に合った事にホッとしているロイの表情に
エドワードが、驚きで目を瞠る。

「えっ・・・、ロイ?
 あんた、なんで ここにいるわけ?」

現状がわかっていないのか、そんな事を聞いてくるエドワードに
ロイは あきれたように、ポカリと頭を軽く殴る。

「何を言ってるんだね。
 それどころではないだろう?

 どこかケガはないか?」

ロイが、抱きかかえて倒れこんだ体勢から エドワードを覗き込む。

「あっ、うん。
 ごめん、ちょっと考え事してたら 足滑らしてさ。」

照れたように告げるエドワードの言葉を
ロイは、盛大なため息をつく。

「全く君は。
 しっかりしているんだか、抜けてるんだか・・・。

 考え事は、場所を考えてしなさい。」

そう言って、エドワードを立ち上がらせるために
手を引いてやる。

「いてっ!」
立ち上がろうとしたエドワードが、悲鳴を上げる。

「どうした!!」
途端、心配そうにエドワードに声をかけてくるロイに
エドワードは、バツが悪そうに

「ごめん・・・。
 ちょっと、足を挫いたみたいだ。

 でも、対したことないから。」

そのまま歩こうとするエドワードの肩を押さえ、
ロイは、ひざまづいてエドワードの足を見る。

「右か?
 痛いのは、足首か?」

ロイが、ズボンをたくし上げ、履物を脱がしていく。

「いたっ、ロイ!
 痛いって!
 触るなよ!」

「体重を足にかけるな。
 私に捕まってなさい。」

エドワードの抗議に耳を貸さずに、
ロイは エドワードの腫れた足首をみて、ため息をつく。

「これのどこが、対した事ないんだね。

 短時間で、ここまで腫れあがってるという事は、
 骨にひびが入ってるかもしれないぞ。」

怒りを滲ませた声で、ロイはエドワードにそう告げると
立ち上がり、ハボック達に声をかける。

「ハボック、フュリー。
 先にエドワードをテントに連れて行く。
 後を頼む。」

二人の了承の合図を確認して、
ロイは エドワードに背中に乗るように後ろを向いて屈む。

「えっ、いいよ、別に。
 歩いて行けるから、おんぶなんて ぜってーに嫌!」

嫌がるエドワードに、ロイは あっさりとわかったと答えを返すと
ほっとしているエドワードが驚く間もなく抱き上げる。

「わぁー!!
 な、何するんだよ!

 降ろせ、降ろせってばー!」

お姫様だっこに、激しく抵抗を感じて暴れるエドワードは
バタバタと手を振り回して、抵抗する。

「五月蝿い!
 おんぶされるのが嫌なら、抱き上げて行くしかあるまい。

 どうする、どっちがいいか選ばせてやる。」

そう凄まれた表情で告げられると、さすが ロイの本気がわかるのか、

「おんぶでお願いします・・・。」と
エドワードが 小さく答えた。



負傷して戻ってきたエドワードに、レイモンドが驚いていると
負傷した事の顛末を、恥ずかしそうにエドワードが告げる。
ロイは、応急処置が終わると 後で迎えに来ると言い置いて
現場に戻っていった。

この後、引渡しまで確認するつもりなのだろう。
まだ、夜明けまでは 僅かに時間がある。
エドワードは、発熱するかもとロイが渡していった痛み止めを飲んで、
うつらうつらと眠りの淵を漂っていた。
横で、心配そうにしているレイモンドに申し訳ない気にはなるが、
薬が誘う眠りに逆らえない。



眠りについていたのは、僅かな時間だったらしく
外が ほんのり明るさを増やしていっている。

「エドワード?
 痛みは 大丈夫か?」

心配そうに覗き込んでいるレイモンドに気づき、
エドワードは、身体を起こす。

「おう、全然 大丈夫だ。
 ちょっと、寝て 気分もすっきりしたしな。」

起きたエドワードに水を差し出してやると、
受け取って おいしそうに飲み干すのを見、
レイモンドは、ほっと安堵の息を吐く。

「ごめんな、なんか 心配かけたようで。

 でも、捕獲の方は 全然、大丈夫だったんで、
 もう、安全だぜ。
 安心しろよ。」

レイモンドに心配をかけないように、
エドワードは、明るく そう告げてくる。

レイモンドは、エドワードに向けられた笑顔に
昨日、感じた同様の寂しさを感じる。
エドワードが、大丈夫だと笑顔を向ける度に
自分が 蚊帳の外にいる事を痛感する。
確かに、自分には 何も出来なかった。
だが、心配すらさせては貰えないのだろうか・・・。

「レイモンド?」

黙り込んで、エドワードの顔を見ているレイモンドの表情が
余りに寂しそうにエドワードの目には映り、
どうしたのかと声をかける。

「エドワード・・・、
 俺が 君の事を心配するのは迷惑か?」

そんな意外な言葉が聞こえてきて、エドワードは思わず
レイモンドを見つめる。

「えっ・・・、いや 迷惑だなんて・・・。

 心配掛けて悪いなっとは思うけど。」

レイモンドの言いたい事がわからず、返答も口ごもりがちになる。
そんなエドワードを見、レイモンドが静かに 自分の本心を語り始める。

「俺は、君の事だけが心配だった。
 
 申し訳ないが、他の二人の事も テロの事も頭になかった。

 はっきり言うと、他の人間が被害にあったとしても
 君には安全なところで居て欲しい。
 
 俺にとって、エドワードは他の奴らとは違う。
 
 今は、確かに俺には力がないが
 いずれは、君を守るだけの力が持てる。

 その時、エドワード 君には、
 安全な俺の横に居て欲しい。」

そう言うと、レイモンドは 真摯な色を浮かべた瞳で
エドワードを見つめる。

エドワードは、レイモンドの告白に 驚きを示す。
金色の光を集めた瞳は 大きく開かれ、
柔らかそうな唇は、薄く開かれ吐息を止めている。

レイモンドは、そんなエドワードを 綺麗だと
状況にそぐわない感想を持って見つめ続けている。

そう、ずっと エドワードを綺麗だと思っていた。
珍しい金髪金瞳は当然ながら、
白磁器のように滑らかな肌と、華奢な肢体。
クルクルと表情が変る整った面は、
静かに思考に浸っている時には、静謐な美しさが満ちている。

レイモンドが、エドワードに声をかけたのは
偶然でも何でもない。
大学に入る前から、同年代の彼の活躍はレイモンドの興味を引いていた。
軍と浅からぬ関係がある彼の家では、
エドワードの活躍も、情報も、
一般に出回るより詳しく手に入る。

自分とは全く違う世界で活躍しているエドワードは
レイモンドにとっては、密かな憧れにも似た気持ちを抱かせていた。
家に敷かれたレールを走る事には依存は無い。
自分には向いているとも思っているし、面白さも感じている。
が、何者にも縛られない自由奔放なエドワードの行き方は
レイモンドにとっては、無いもの強請りに近かったのかも知れない。
大学に偶然にもエドワードが入った事を知ったレイモンドは、
自分の幸運に驚きもしたし、喜びもした。
遠くから見ているだけでも、
エドワードの存在感の強さや、影響力の強さは
レイモンドの好奇心を満足させてくれた。

『遠くから見ているだけで、良かったんだ・・・。』

たまたま、エドワードが読む本が 自分と似通っている事に気づいた。
そうすると、さらに エドワードに興味が湧いた。
自分なら、こう考えた事を 彼なら どんな風に考えるのだろうか?と。
そして、近づいて、親しくなればなるほど
エドワードが、自分が描いていた人物像より
遥かに鮮烈で、鮮やかな事に魅せられるように惹かれていった。

レイモンドは、今の歳まで
特に感動する程の 人にも物にも出会った事が無い。
大抵の物も人も、彼にとっては 変わりがあるものに過ぎなかった。
そんなものたちに、レイモンドは 興味を惹かれる事も無く
執着する事もなく生きてきた。

が、エドワードだけは違ったのだ。
知れば知るほど、興味を惹かれ
見れば見るほど、美しさに目を奪われる。
そして、近づくと 美しい容姿以上に 
心を虜にされる彼という存在に
気づけば、傍にいるだけでは満足できないようになっていた。
手に入れたい・・・今のレイモンドの願いは 
それ1つであり、それが全てになっていった。

エドワードは、しばらく凝視していたレイモンドから目を離し、
落ち着くように息を吐き出すと、
しっかりと相手を見つめ返す。

「それって、昨日 レイが言っていた
 唯一の横に並ぶって事?」

「ああ、そうだ。」
頷くレイモンドに、エドワードは 難しそうな顔で
言葉を返してくる。

「俺の隣に立つ奴は、俺を守るためにいるんじゃないんだ。
 共に進むために、一緒に立ち、互いに闘う為に横に並べる奴だ。

 だから、そう言う意味での横には 俺は立てないし、
 レイを横に立たせる事もしない。」

きっぱりとエドワードは、自分の答えをレイモンドに告げる。

「では、エドワード。
 君にとって、友人は どう言う位置にあるんだ?」

共に成長して、進んでいく・・・。
なら、それは友人ではないのか?
レイモンドの疑問がわかったエドワードは、
申し訳なさそうに、レイモンドを見る。

「俺にとって、友人は 『集う』場所にいる人間だ。
 でも、俺は 同じ場所では 長くは居ないから・・・。」

集う場所や、時により替わる人間と言う事なのかと
レイモンドが思う。
その考え自体は、レイモンドと似ている所があり
すんなりと納得できるものもある。

「では、恋人は?
 共に 生涯を進む事になるかもしれない。」

レイモンドの質問に、さらに 難しそうな表情を浮かべる。

「う・・・ん。
 どうなのかな?
 実際に考えた事無いから、それはあんまり実感湧かないな。」

そう告げるエドワードに、レイモンドは 自分の願いを告げる。

「なら、今から 考えてみてくれないか?
 俺は、エドワード。

 お前となら、恋人として 生涯隣に立って行ってもいいと思っている。」

その言葉に、エドワードは 思わず、その言葉を告げているレイモンドを
まじましと見つめる。

「恋人って・・・。」

戸惑うエドワードには、気にせずに
レイモンドは、自分の願いを続けていく。

「そうだ。
 俺は お前の事が好きだ。
 友人としてではなく、恋人として。」

はっきりと告げると、レイモンドの中の迷いも消え、
晴れやかとさえ言える笑顔を向ける。

エドワードは、その笑顔を見つめて 困惑を深くしていく。



ロイは、先ほどから この場所から動けずにいた。
現場の確認が終わり、エドワードに治療をさせる為に
迎えにやってきたのだが、
薄いテントでは、中で話されている声が 良く通る。
込み入った話をしているのかと待っている内に、
さらに 入りづらい話に進んでしまっていた。
まだ、早朝で 人は起き出していないから
テントの傍で立ち尽くすロイを変に思う者も、
テントの中の会話に興味を示すものも居ないが、
そう間もなく、人目に触れ、聞かれる事になるだろう。

そして、ロイ自身。
エドワードの答えを、気配を消し、息を潜めて
待ち続けている。


陽光が強くなるに従って、周囲から 人の気配がする音が響いてくる。
エドワードは、自分が答えないと動かないだろうレイモンドを見る。

彼が言っている言葉は、真剣だ。
自分も、きっちりと答えるべきだと決心したエドワードが、
言葉を紡ぐ。

「レイ。
 まずは、ありがとうな。
 俺の事を、そこまで 好きになってくれたのは
 素直に嬉しいと思う。」

エドワードが、そう答えると
レイモンドの強張っていた表情が、僅かに緩む。

「でも。」とエドワードが続けて行く。

「俺は、レイモンドの事は 良い友人だと思っているし
 興味を惹かれる人間だと思っている。

 けど、それは お前が言うような意味では
 全くないし、多分、 今後も そんな風には
 レイの事は見れない。

 だから、ごめんな。」

エドワードの、付け入る隙も無い返答に
レイモンドの口内が空からに乾いていく。

動きたがらない舌を無理に引き剥がし
一縷の望みの為に、言葉を作る。

「・・・今すぐでなくてもいいんだ。」

そう告げるレイモンドに、エドワードは悲しそうに首を振る。

「全く、満に1つの希望も・・・?」

エドワードは、辛そうに呟かれるレイモンドの言葉に
レイモンド以上に辛そうな顔で、うなずく。

「・・・誰か、他に好きな奴でも?」

そう聞かれ、一瞬 考えるような素振りを見せたが、
エドワードは、ゆっくりと首を振った。

「・・・わかった。」
小さな声で呟くと、レイモンドは立ち上がる。

テントを出て行こうとするレイモンドを、
エドワードも引き止める言葉を言わないで見送る。

出る間際に、レイモンドが もう1度振り返り
エドワードに問う。

「エドワード。
 君の横に立つ唯一の人間は、
 マスタング氏の事なのか?」

レイモンドから、ロイの名前が出て驚くが
エドワードは はっきりと答える。

「いや、ロイじゃない。
 俺の横に立つ唯一の奴は、俺の弟のアルフォンスだけだ。」

エドワードが、隠しきれない誇りを持った表情を浮かべ
レイモンドの予想と違う、意外な人物を思い浮かべる。

『なるほど、旅の間 常に一緒に活躍した弟か・・・。』

意外な名前を聞いたが、それもそのとうりだと納得ができる。
この兄弟の絆の強さは、生半可でないと聞いた事が有る。
なら、ロイ・マスタング氏は・・・?

「では、マスタング氏は
 エドワードにとっては、どんな位置に立つ人間なんだ?」

思い浮かべた疑問が自然と口を付いて出る。
エドワードは、特に考えた事もなかった事を聞かれて
困惑しながらも、考えてみる。

「ロイは・・・、昔は あいつの背中ばかり見てた気がする。

 俺らは、まだまだ子供で
 あいつに迷惑をかけていた事も、守られていたことも
 気づけない事ばかりだった。

 気づけば、護られているばかりだったから
 俺が見ていたのは、あいつの背中ばかりだ。

 でも、今は・・・。」

言葉を止めたエドワードを見て、静かに先を促す。

「でも、今は?」


「今は・・・。

 あいつには 別に横に立っても貰いたくないし、
 背中を見ているだけもしたくない。

 出来れば、俺はあいつの正面に立って
 あいつの全てを見届けてやりたいと思っている。

 そして、あいつにも そう望まれる人間でありたいかな?」

レイモンドは、昨夜 ロイが自分に語った言葉を
エドワードの言葉を聞きながら思い出す。

『信じて待ってやる事だ。』

相手の能力を、強さも、そして弱さも
その存在ごと信じて待ってやる。
自分と向かい合って立つ人間には、誰も嘘も誤魔化しも出来ない。
あるがままの自分を見せるしかない。
困難に這い蹲る惨めな姿も、
悩み苦悩する弱い自分も、
自分の愚かさに涙する自分も、
その全てをきちんと向かい合い受け止めれる人間。
そして、曝け出す勇気がある者。。
その覚悟がある者だけが、人の正面に立てる。
エドワードは、概に その覚悟があると言っているのだ。

『なんだ・・・、この二人は すでに絆を、
 誰にも断ち切れない絆を、持っていたんじゃないか・・・。』

世間一般で言われたり、目で見て簡単にわかる関係ではないが、
もっと深い部分で、自分達の関係を育てていっているんだ。
レイモンドは、それを見抜けなかった自分の力量の低さを後悔した。
最初から見抜けていたら、これだけ絆の深い二人の間に入ろうなど
無謀な事は考えはせず、高嶺の華とあきらめて眺めておれたろうに。

人騒がせな二人には、深いため息をつくしかない。
この恋心は、もう消せないところまで育ってしまった・・・。
どんなに叶わないと解っていても、
好きでいることを消せることは出来ない。
なら・・・。

「そうか・・・、答えてくれてありがとう。

 エドワード、こんな事を言った後だが
 俺との友人関係は続けてもらえるか?」

(・・・傍で見続けるより他はない・・・
        想いを抱えながら苦しんでも・・・)

レイモンドの言葉に、エドワードは嬉しそうに頷く。
その笑顔を見ながら、レイモンドがテントから出る。

外では、立ちすくむロイが居た。
レイモンドは、その彼に向き合って言葉を投げかける。

「解りにくい関係を作らないで下さい。
 それに振り回される周囲が、迷惑です。」

そう言いきると、レイモンドはロイの前を去って行く。

ロイは、しばらく呆然と今聞いた話を考え立ち尽くす。

そして、自分の臆病さに恥ずかしくもなり、
エドワードの真摯な態度にも、心を打たれた。

そして、レイモンドの潔い態度には学ぶべき事が多かった。

自分は、エドワードの事を どこまで甘く見ていたのだろう。
あの小さかった子供は、今は ロイが考えているより
遥かに大きく、強く、そして 優しく成長をしている。
自分は、受け止められてもらえなかった時の事ばかり考え、
自分の気持ちにも、想いにも、正直に向かい合う強さもなかった。
けど、その臆病さは エドワードに対して
失礼すぎる事だ。
エドワードは、どんな答えを出そうとも
決して、ロイから目を離さないだろうし
受け止めて行ってくれる。
それだけの強さを持つ人間に対して、
ロイの考えは卑屈で矮小でしかない。

ロイは、自分の覚悟の甘さに叱咤する。
例え、自分の想いと同じものをエドワードに望めなくとも
それでも、エドワードの前に立つ勇気を持って行きたい。
そうでなくては、エドワードに選び続けてもらえず、
彼の正面に立ち続ける事もできない。

今、自分に出来る唯一の事は
自分の想いに正直に向かい合う事だ。

そう強く想いながら、ロイは 自分の為の第1歩を踏み出し
テントの中のエドワードに声をかける。





[ あとがき ]
長くなった章ですが、次で終わりです。
もう少し、お付き合いください


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